手紙
拝啓 フリー・アルヴァロス殿
僕もあんたが退団する年齢と同じ歳になった。入団してすでに二〇年、僕の人生の半分以上をここで過ごしていることになる。少し感傷的だが、感慨深くないと言えば嘘になる。この前修道女のためにホワイトローズベリーを摘みに行ったが、あんたと初めて会ったのもここだったなと原点に返った気がした。あんたは元気に過ごしているだろうか。便りのないのは元気な証拠なんて先人達が言っていたが、いくらなんでも便りがなさすぎるだろう。まあ人のことを言えた義理じゃないが。
時は巡って、騎士団の面々も様変わりした。古い奴らは退団し、新人が多く入ってきた。十五歳の若造だった僕もすでに古株になり、柄にもなく後進の育成なんかにあたっている。正直うまくいかないことがあって、そうだ、この前なんかおっさんと言われたぜ。あり得ないだろう。僕が人を育てていること、おっさんなんて言われてること、この状況を見れば目をくしゃっとさせてあんたは笑うんだろうな。
僕はいつも困難に直面すると、あんただったらこの状況でどうするだろうか、なんてダサいこと毎回考えて、心の中で語りかけている。あんたが二十年前に引き上げた手の感触を未だに覚えている。でも思い出すあんたの顔は未だ十年以上前の姿で止まっているんだ。今どんな顔をしてるんだろうな。顔に皺ができたり、白髪が見えてるかもしれないな。素直に言えば、あんたの顔を見たいし、僕はあんたに答え合わせして欲しいことが山ほどある。
あんたが気にしていたブラッドも元気だ。相変わらず昼行燈して、そこらへんをほっつき歩いてる。以前より笑顔が増えているよ、安心しろ。あんたが心配することは何もない。
追伸 返事はいらない。あんたが受け取ってくれればそれでいい。じゃあな。
一〇三二年 ×日 レオ・ガッタカム
レオは赤い蝋を垂らし、スタンプの金属部分を当て、封緘した。
封緘して逡巡し、改めて考えれば感傷的なこんなダサい手紙、出せるわけないだろ。どうせティゴル谷に行く用事なんかないから、届けられないしな。何より僕のやるべきことはまだ終わっていない。終わったら、ようやくあいつに会いに行けるんだ、そう心の中で呟いた。
先ほど蝋を溶かした火を、金属の皿の上にある手紙に放った。赤い炎の端に細長い黒色の煙が立ち上るのを見ながら、この煙とともに僕の気持ちも昇華するだろうかと妙に感傷的な気分になった。
煙はすぐに白く変化し、消えた。